布団から足出して寝ていたら、鬼女がおめえの足を鎌で切り取ってしまうかんな。
窓際に誰かが立っていても覗きこんじゃいけねえよ。窓から顔出すとチクラの鬼女がおめえの首を切り落としちまうかんな。」
夏に窓を開けっぱなしにして寝ていたら、婆ちゃんに物凄く怒られた。
この辺にはチクラの鬼女と呼ばれる魔の類がいて、夜に窓を開けて寝ていると覗きこんで来るそうだ。そして布団から出た足を鎌で切り落としてくるという恐ろしい鬼女らしい。
子供の躾けに使う脅しだろと高を括っていたが、婆ちゃんは「怖がらせて悪かった、早く忘れろ」と矛盾したことを言ってきて、何かを畏れる様子であった。
なんでも怖がっていたり、心の中に念じていても鬼女を引き寄せるそうだ。
「キョエー!!!」
遠くで狂ったような女の叫び声が聞こえた気がして、慌てて窓を閉めた。
その夜、蒸し暑くて目を覚ますと窓の方に異様な気配を感じた。思わず凝視すると曇りガラス越しに、髪がぼさぼさの老婆が張りついているのが見えた。
「ヒッヒー!!ヒヒー!!」
こちらに気づいた鬼女は気味の悪い声を響かせて物凄い勢いで走り去っていった。
翌日婆ちゃんにその夜のことを話すと
「もう忘れなよ、そしてあんまり鬼女のことを誰かに話すんじゃないよ」そのように言われ、婆ちゃんの忠告通り頑張って忘れることにした。


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